高校時代の実録

毎日を過ごして、感じたことを日記のように文章にしていこうと思います。

1.恋は罪悪ですよ。

九月二十六日火曜日

   まず、書いておきたい出来事が一つあるのでそれについて記す。
   入学当初のことである。私は運動神経が極めて悪く、運動部に入るような人間ではなかった。そしてまた、吹奏楽部や軽音部などは人数が多く、コミュニケーションが苦手な私には少し敷居が高かった。しかし私は音楽が好きであったために音楽には携わって高校生活を送りたいと思案していた。そこで、あまり人気のない部室を構える放送部に入ろうと考えた。案の定、部室はまるで倉庫の中のように薄暗く入り難い雰囲気を醸し出していた。勇気を出し中に入ってみると、そこには六人程度の男女が座って昼食を食べていて、入室した僕に気付いても二、三秒は誰も喋らなかった。非常にまずいことであるが、彼らはこの部に新入生が入ってくるとは思っていなかったのだろう。しかし、先輩方は私のことを優しく向かえ入れてくれた。活動も適度にやりがいを感じ楽しいものであったので程なくして入部届を提出した。


   月日は流れ今日に至る。先輩方は夏季休暇に入る前に引退し、その後、放送部は僕1人で活動するという休部寸前の展開を迎えたが、現在は僕の努力のせいか部員が4人に増え息を吹き返したかのように見えた。放送部の過去についてはまた、今度の機会に書こうと思う。世代交代を迎え、私の部となった放送部で、やがて私は何か後世に残るようなことをしてやりたいという欲求が芽生えた。そして手始めとして写真部に協力をしてポスターを作ろうと試みたのである。ポスター製作自体は難なく終了し、満足のいく作品が完成したのだが、製作の過程において、1つ私が嫌悪感を抱いたものがあった。こんなことを話すのは自分自身も気持ち悪さを感じるが、正直にここに書き記す。


   写真部の部室にポスター製作の企画書を持って行き、部室にお邪魔した時のことである。今時の女子高生らしさのある部長と副部長に私は企画書の流れを説明した。返事は濁りなくもらえたのだが、私はとても緊張させられた。企画参加への意志があるかどうかということが気になったのではない。そこには女子生徒がたくさんいたのである。これがいかに私にとって窮屈なことであったか理解できるだろうか。ろくに女の子と喋ったことのない年頃の男子が女子に囲まれて話すとはそういうことである。しかし、その後の撮影などもほとんどのメンバーが女子で構成されていて、日を追うごとに慣れていく事ができた。では何に私は恐怖心を抱いたのか。痛々しさを感じるだろうが読んでほしい。私は彼女らに好意を持たれるのが怖かった。また逆も然り、そのような関係に陥ることが私の確固たる信条を侵すと考えていた。もちろん、そのような事が実際起こる確率は限りなくゼロに近しいことは承知である。断じてありえないだろう。


   ちょうどその頃、現代文の授業で夏目漱石が著した『こころ』を繰り返し読んでいた。その一節にこういうセリフがある。「恋は罪悪ですよ。」このセリフが私のこころをつかんだ。いいえ、違う。私の心臓を握ったという方が正しい。とても痛かった。私には苦々しい経験があったためである。その経験が私を強く拘束するのである。
続く